080513 | 鰹節の削り場

080513

 Ⅱ

 いつの間にやら備品であったMADE IN CHINAの黒ボールペンを丁寧にも二等分してインクを垂れ流していたので、気持ちを静めるべくチャンネルをひねるがどこもかしこも白パト24時だの万引きGメンだのビザの切れた外国人売春婦一斉摘発だのつまらない企画をこれでもかと使いまわしていたので僕はボールペンの残骸をIdiotBoxに投げつけてしまった。当たり所が悪かったようで、画面から人間が発するような艶かしいエラー音が連続的に鳴っていた。
 それが回線上の故障ではなく、番組内での一カルキュラムであったのに気づいたのはほんの数分前であった。何せ、音は聞こえど画面にはずっとこの地方の観光マスコット「栗と栗鼠」ちゃんが画面にでんと佇んでいるからにして本当に故障したのかと思いフロントに「修理を頼む」とラブコールを送ってしまった所存。ああ恥ずかしいが今から言い訳を考えにゃならんと頭を抱えている刹那にもう修理の人間を遣した。全くやることが早いのう。
「何か?」
「い、いや、こここここれ見るにはどうすれば」指差せばそこにはさっきから大音量でアンアンアンアンアンアンアンアンアン狂ったように同じ声域で喘ぐ女の声が。右手に修理工具を持ちながら奴は思わず噴出していた。
「ぷぷっクスクス。フッフフ。……えーっと、ングフゥッ。……くっくその隣の箱に五百円を放り込めば、ブハァ。ククッ見れるとククッ思ぅホホ」
 などと終止笑いが込みあがってくるのが癪に障ったので「どうも」と返事をした後すぐに「これで安心して行えるよ」と、右手の親指と残り四本で輪っかをつくり、手首を気だるく上下に動かすと、奴は今まで沸々と込みあがっていた笑いの感情がついに爆発した様子で「ブバッ」と肺にまで溜まっていたCO2を一気に排出し、「ブボォッ」と腹に溜まっていたメタンガスもついでに放出し、弾みで右手に手汗をかきながらも必死に持っていた筈の5、6kgはあろう工具とお別れを告げて右足の指先に已む無く不時着。カトゥーンでしか見たこと無いような表情をして、あいさつもせず開きっぱなしのドアをそのまま一目散に転がるように出て行った。