080517 | 鰹節の削り場

080517

 Ⅵ

「あのお、急ぎの用なのでお早めにお願いいただけませんか」
と言って弓のようにガチガチに反り返った天狗様の気高きお鼻が透明な液体を引き出しながら、これでもかと言わんばかりにびくんと大きく跳ねる。それに合わせるかのように娘も、「あぅふっ」と理性のある人間の反応とは到底思えない声を洩らし、さきほどよりも1.5倍ほど股座をぐっしょりと気持ち悪くしてやったり。それはすぐに沸点を越えて蒸気と化す。それによってたばこ屋付近から、何とも言えない、女から発せられる特有の匂いが、空気中の酸素窒素炭素と癒着し、それらの気体が大気中に浮遊すると、呼吸を繰り返して生きながらえる人間及び僕は、たばこを買うという行為を達成するために已む無く逝き倒れる彼女の前に仁王立ちするのだが、それらの臭気はもはや隠匿できる範囲ではなくなり、通りがかりの救い難いほど不細工な学生は、その何とも表現し難い初めての女の臭いに興奮し、勃起し、挙句の果てには通りがかりのエロスに敏感な小学生が、千摺りすることなく脊髄反射により射精し、初めての感覚に酔い痴れたような表情で快楽に浸り、歩道用の信号は赤を示したにもかかわらずそのまま足を伸ばし、おそらく同じ理由で快感に見舞われたと思われるトラック運転手に前方不注意というかたちでバンパーに大きく体当たりし、その弾みで上半分と下半分の体の境目に亀裂が走り、その亀裂が大きくなるとやがて体は完全にちぎれて両者とも自分の行きたい方向に勢い良く飛び出すのだが、いかんせん大腸がロープ代わりとなってその二つをビーンと結びつけ中々思うように跳躍をせず、結局二つとなった肉体はそのまま落下しグシャッというおそらく打撲により内臓が破裂またはあっちこっちにツイストしてしまったと思われる効果音と、ビシャッというおそらく露出した内臓群が地面に叩きつけられて放射線状に血液を散らばらせたことをより印象付けるための効果音が後ろ頭から生々しく伝わるが、即座のことなので僕には特に気にすることでもないと振り向くことはしなかった。