080520 | 鰹節の削り場

080520

 Ⅸ

 五百円硬貨を得るためだけに時間を注ぎ込みすぎた。さっきからお姫様抱っこをしていた逝きっぱなしの小娘をたばこ屋に投げ捨ると、ガラスが激しく割れる音とギャーッという断末魔が響いたが、今更後ろを振り向く義務は無いので急いで元来た道を駆けていく。
 だがしかし、さっきから僕の唯一自慢できる点とも言える立派な将軍様がお目見えしていたので、本来ならば一般市民はその将軍様に敬意として地面にひれ伏し、将軍様がお通りするまで頭を高くしてはいけないはずなのに、あろうことか昼休憩中のOL達は、顔を唇よりも濃い紅に染めるやいなや、あちらこちらに分散して「痴漢ー!」「痴漢よぉー!」などと騒ぎたてまつられるものだから、暇な悪徳ポリスどもがどうしたものかと野次馬にくるやいなや、将軍様がまず一番にお目にかかったようで、彼らはその大きさに嫉妬したのか、僕の将軍様に執拗に鉄の輪っかを被せようと必死だ。短小包茎どもめ。ザクとは違うのだよザクとは。
 残念ながら、僕は昔陸上でタイムを残したことがあるぐらいなので、運動不足の贅肉どもには追いつけなかったか、一人は車がびゅんびゅん飛び交う道路を横切るところで、うまく渡り切ることができずにダンプにミンチにされ、一人はあまりにもしつこいので、12階はあろうビルの最上階まで行き、はす向かいの少し低めで少し距離のある保険会社の大看板に命がけのダイブ。死ぬかと思ったが、必死にしがみついたブスな流行女優のお陰で助かった。それに連なって奴もダイブをしたのだが、勢いが足りずにビルの端に指だけ着地。
「お、おい。助けてくれれば、書類送検で済むぞ」などとほざくものだから、制服野郎の顔に黄色く流れる滝を浴びさせれば、それを飲み込まんと必死になり、いつの間にやら手を離し、途中にあったツバメの巣を破壊し、蜘蛛の巣を突き破り、花瓶をぶつけられても尚登り続けるクレイジークライマーを尻で突き落とし、なおかつ落下速度は依然変わらず、彼はアスファルトとの交尾に失敗し、まるでハンガーにかけるのが面倒くさくてそのまま脱ぎ捨ててしまったジーンズのように、爪先から畳み込むようにくしゃくしゃに折れ曲がり、その衝撃は脚の三分の二までに達し、残りの半身は打ち付けた衝撃で、外傷自体にさほど変わりは無いものの、内臓類は既に爆発し、口や目や肛門から大量の血液を吐き出し、成れの果てが蛇の抜け殻のように見え、その様が少し滑稽に思えて不謹慎にも笑いがこみ上げていた。おっとこんなことしてる場合じゃない。急がねば。