鰹節の削り場 -2ページ目

080517

 Ⅵ

「あのお、急ぎの用なのでお早めにお願いいただけませんか」
と言って弓のようにガチガチに反り返った天狗様の気高きお鼻が透明な液体を引き出しながら、これでもかと言わんばかりにびくんと大きく跳ねる。それに合わせるかのように娘も、「あぅふっ」と理性のある人間の反応とは到底思えない声を洩らし、さきほどよりも1.5倍ほど股座をぐっしょりと気持ち悪くしてやったり。それはすぐに沸点を越えて蒸気と化す。それによってたばこ屋付近から、何とも言えない、女から発せられる特有の匂いが、空気中の酸素窒素炭素と癒着し、それらの気体が大気中に浮遊すると、呼吸を繰り返して生きながらえる人間及び僕は、たばこを買うという行為を達成するために已む無く逝き倒れる彼女の前に仁王立ちするのだが、それらの臭気はもはや隠匿できる範囲ではなくなり、通りがかりの救い難いほど不細工な学生は、その何とも表現し難い初めての女の臭いに興奮し、勃起し、挙句の果てには通りがかりのエロスに敏感な小学生が、千摺りすることなく脊髄反射により射精し、初めての感覚に酔い痴れたような表情で快楽に浸り、歩道用の信号は赤を示したにもかかわらずそのまま足を伸ばし、おそらく同じ理由で快感に見舞われたと思われるトラック運転手に前方不注意というかたちでバンパーに大きく体当たりし、その弾みで上半分と下半分の体の境目に亀裂が走り、その亀裂が大きくなるとやがて体は完全にちぎれて両者とも自分の行きたい方向に勢い良く飛び出すのだが、いかんせん大腸がロープ代わりとなってその二つをビーンと結びつけ中々思うように跳躍をせず、結局二つとなった肉体はそのまま落下しグシャッというおそらく打撲により内臓が破裂またはあっちこっちにツイストしてしまったと思われる効果音と、ビシャッというおそらく露出した内臓群が地面に叩きつけられて放射線状に血液を散らばらせたことをより印象付けるための効果音が後ろ頭から生々しく伝わるが、即座のことなので僕には特に気にすることでもないと振り向くことはしなかった。

080516

 Ⅴ

 あいにく二十歳になったかなってないかの子供を抱くほど幼稚ではなかったので、僕は自販機でたばこを買えないと分かると無表情のまま彼女を外まで姫様抱っこし、そしてアレに指を滑り込ませると彼女の体を熟知しているかのごとく素早い指技で彼女を見事昇天させ、投げ捨てるのも野暮なのでその状態のまま近くのたばこ屋まで駆けて行った。
「ハァ。ハァ。赤マルひとつ」とたばこ番のうぶな娘に頼む。あまりに急な場面、事態に元々丸い目をさらに丸くし、皺ない顔を引き攣らせて無理に皺をつくっている。
「あ、ああ、マルボロで」と、抱きかかえたアクメ状態の裸の娘から目をそらそうと下にうつむいた時に、僕の聳え立つオットセイが不覚にも小娘にあいさつをしかけたようで、
「あ……。ああぅ……」
 と困惑を表すかのようないやらしい声を上げると同時に、小刻みに体を震わし、仕切りによって体の下半分は把握できないのだが、地面に水が弾けるような音が否応無しに響いていたので、おそらく股座を湿らせたことであろう。娘は内股になったのか、よろよろと右の壁にのたれ掛かり舌をだらんとおっぽり出すと口先から唾液が零れ落ち、それが糸状となって一層この小娘に秘めるいやらしさに拍車をかけた。

080515

 Ⅳ

「あら坊や、ここがカチンカチンじゃないの」
 ビビン。
 これは僕の勃起の瞬間を擬音化したものだ。無反応を通してきた僕の天狗茸はここぞとばかりにズボンいっぱいにテントを張り出し、あまりのハリの良さに痛みを憶え始めたので早速ジッパーを最大限まで下ろして開放してやると、ソレは勢い良く顔を出し「やあ久しぶりじゃないか」とツヤツヤと血色の良い顔色で僕にビクンと脈打った会釈をした。それに合わせるかのように、僕の胸のひづめ太鼓はどんどんと高くなり、ホテル全体に行き渡っているんじゃないかと思うぐらい大きくなった。
「可愛いのねぇ。ママのおっぱいしゃぶりたいんでしょ」
 ああそうだ。誰がなんと言おうと僕は熟女好きだ。それも熟しすぎることもなく、若過ぎずのギリギリのラインが好みなんだ。ああ確かにどストライクだよ。全く酷いもんだぜ。
「んじゅぷっ……。ほんなにおおひふなっひゃっへ……。まっはふひょうはないほね……じゅっぷじゅっぷ」
 このままでは収まりつかないのでちゃっちゃと済ませようとしたが、五百円入れてないことに、画面には、笑顔で六つの手と九つの乳房を振って愛嬌振りまく栗と栗鼠ちゃんのポーズしか見えず、困ったことに500円硬貨を持ち合わせていなかった。
「じゅぴじゅぱっじゅぶっ……ぷはぁっ。熱い。熱いのいっぱいかけてぇ」
 僕は開きっぱなしだったドアを勢いよく飛び出て壁に体を打ち付ける。だが痛みより先に欲望が股間を一点に込みあがり、札を崩しにフロントまでたばこの自販機を探すが、いくらどのボタンを押してもたばこが出てこない。僕が秒速17連打で押し続けていると、乳臭い幼さが残る風貌の女従業員が見かねた様子で声を掛けた。
「ごめんなさい。自販機でたばこを買うにはタスポっていう」
 と言い掛けた彼女の目に僕の剥き出しのぶっといアカジコウとオニフスベが映ったらしい。彼女は言葉を失い、しばし物言いたげに口をぱくぱくと動かした後、僕がボタン連打に勤しむんでいる背中で、下着までするすると綺麗に脱ぎ落とすと、赤ん坊のような透き通った肌を露にして「抱いてっ」と叫び僕の背中に飛びついて来た。

080514

 Ⅲ

 教えてもらったはいいが、特に欲情もしないのでそのまま左肘を立ててけだるい表情で夕方のニュースを流し見ていると、ポンポンという高いヘルツの音とともに速報の文字が画面上側に点滅する。その5秒後に本文が流れ「#$%&(どこかの国と書いてあったのだが特に真剣に見ていなかったので忘れてしまった)が日本に向けて核弾頭ミサイルを発射した」などと、あわやニュース中にも映画の宣伝を執り行っていたのにうんざりし、仕方なくアダルトチャンネルに変えたはいいが相変わらずアンアンアンアンアンアンアンアンアンアンアンアンアンアンアンアンアンアンと同じSEばかり流れる。興奮を通り越して面白さが滲み出て、試しに音量を54まで上げてみるとおそらく本当にアンアンしていたのだと思われる両隣からドンッと大きな音を確認したので、武士のお情けで音量を下げてやった。すると先ほどまでの単調な作業音が静まりかえる。どうやら場面が変わったらしく安っぽいシンセとドラムを組み合わせた変なBGMが流れ始めた。また茶番劇かとうんざりしていると、栗と栗鼠ちゃんの奥で三十路を過ぎたばかりかと思われる若々しさと艶かしさの間の微妙なアンバランスの大人の声が振動となり、その振動をコマ送りし、ゆっくり、ゆっくり、部屋全体に広がっていき、最終的に僕のうずまき管にまでその振動を伝えさせた。

080513

 Ⅱ

 いつの間にやら備品であったMADE IN CHINAの黒ボールペンを丁寧にも二等分してインクを垂れ流していたので、気持ちを静めるべくチャンネルをひねるがどこもかしこも白パト24時だの万引きGメンだのビザの切れた外国人売春婦一斉摘発だのつまらない企画をこれでもかと使いまわしていたので僕はボールペンの残骸をIdiotBoxに投げつけてしまった。当たり所が悪かったようで、画面から人間が発するような艶かしいエラー音が連続的に鳴っていた。
 それが回線上の故障ではなく、番組内での一カルキュラムであったのに気づいたのはほんの数分前であった。何せ、音は聞こえど画面にはずっとこの地方の観光マスコット「栗と栗鼠」ちゃんが画面にでんと佇んでいるからにして本当に故障したのかと思いフロントに「修理を頼む」とラブコールを送ってしまった所存。ああ恥ずかしいが今から言い訳を考えにゃならんと頭を抱えている刹那にもう修理の人間を遣した。全くやることが早いのう。
「何か?」
「い、いや、こここここれ見るにはどうすれば」指差せばそこにはさっきから大音量でアンアンアンアンアンアンアンアンアン狂ったように同じ声域で喘ぐ女の声が。右手に修理工具を持ちながら奴は思わず噴出していた。
「ぷぷっクスクス。フッフフ。……えーっと、ングフゥッ。……くっくその隣の箱に五百円を放り込めば、ブハァ。ククッ見れるとククッ思ぅホホ」
 などと終止笑いが込みあがってくるのが癪に障ったので「どうも」と返事をした後すぐに「これで安心して行えるよ」と、右手の親指と残り四本で輪っかをつくり、手首を気だるく上下に動かすと、奴は今まで沸々と込みあがっていた笑いの感情がついに爆発した様子で「ブバッ」と肺にまで溜まっていたCO2を一気に排出し、「ブボォッ」と腹に溜まっていたメタンガスもついでに放出し、弾みで右手に手汗をかきながらも必死に持っていた筈の5、6kgはあろう工具とお別れを告げて右足の指先に已む無く不時着。カトゥーンでしか見たこと無いような表情をして、あいさつもせず開きっぱなしのドアをそのまま一目散に転がるように出て行った。

080512

 Ⅰ

 僕が会社の施行でど田舎まで出張し、安い狭いボロいのビジネスホテルが立ち並び、その一つのビルの一室で、特にやることもないので、画面いっぱいに大量の伏線と、ゴジラシリーズに出てきそうな青緑色のコメンテーターが、食べ物をくっちゃくっちゃと音を立て、あまつさえ不愉快であるというのにその大口を開いて、口内の唾液と絡まり合ってどろどろした物をこちらに窺わせながら、恍惚な笑みを浮かべて「おいしーっ」と馬鹿に大きく馬鹿みたいな声で馬鹿にでかい日本語テロップを引き連れながら、僕が今にもテレビを破壊しそうだというのにも気づかずに彼は自前の汚らしい舌をちらつかせて「ほーら、これが僕が食べた美味しい海の幸ですよお」と言わんばかりに、目の前に映るブラウン管いっぱいに彼特製のオートミールを僕に食わせようとしているのか、そんなことはどうでもいいことだが、僕及び視聴者はますます不快になるばかりである。

SAWとCUBEとハンニバルシリーズに共通すること

一作目が一番面白い。

080403

口→首→腹→IT→尻→IT→口→結合→一時恍惚→逝→睡眠→翌日→厠→鏡面→口紅→後天性免疫不全症候群世界迎賓

マッド道化師

 過密なスケジュールは時として人を狂わせる。この小説は第三者視点なので時折不可解な描写が出るがそれはご了承願いたい。
 そう、元来生物は生き延びるための本能というものはありつつも、自由奔放に永らえていた筈だ。それが全ての生物においての天理であり、また全ての生物もそれに応じて生きてきた筈なのに、最近出たばかりの人間、狭めると労働者であるサラリーマンがその原則を大いに無視している傾向にあられる。
 何故か、それはまた生活の糧を得るためであり、はたまたマゾっ子Mちゃんであるからにして、後者である可能性はほとんど皆無だが今も尚そのような綿密なスケジュールが彼らの体に根付いている。
 そうだ、例として田中くん。今年で三十五歳の哀れな例を取り上げてみよう。
 本名、田中防人(さきもり)。某一流企業の一流社員である。勉強もそこそこに、悪く言うならば普通の社員であった。容姿端麗な妻に彼に似合わないほど才能に溢れた四才ほどの女児が一人。毎日彼の帰りを今か今かと待っている。しかし、彼に待っていたのは山積みにされた書類。あまりの量に彼の周りだけ密室になっているのかと思うぐらいだ。そして案の定その仕事を全て済ませることはなく、次に向かうは接待だ。
 彼の接待は社内でも評判であった。自社のお偉いさんに媚びることもなく、またさらでも相手方のお偉いさんを上手い具合に引き立たせるその業は、同期の者から「匠」と呼ばれる要因となった。しかし、どうやらここ最近元気がない。そりゃあ接待に行けば家には帰れず、下手な発言も出来やしない。何せひとつの仕事で億単位の金が動くのだから貧乏ゆすりの一つもしなければストレスを発散出来ないだろう。その間にポケットのヴァイブレーションが鳴るが仕事中相手方の失礼のないように彼は出ることはない。それに、自分に連絡を入れるのは大抵詰まらない仕事を押し付ける上司か、飯を温めて待つ嫁の二択しかない。この連絡は後者だった。
 もう彼此二ヶ月程自宅へ戻っていない。社内で寝泊りを繰り返している。そのため彼を知る周囲の人間は口々に「座敷わらし」とあだ名をつけては彼を貶す言葉として陰で囁きあっていた。
 しかしそんな田中にも趣味があった。それはスプラッター映画である。仕事で手の内がいっぱいになる前は、それはもう暇さえあれば十三日の金曜日やら死霊のはらわたやらモルグ街の悪夢やら、メジャーな物からもう既に販売を終了した物、挙句の果てにはスナッフビデオまで、兎にも角にもスプラッターというジャンル分けされたほぼ全ての作品を漁っていたのである。そしていつしか彼はチェーンソーを所持するようになった。無論、使用したことなどこれっぽっちもなく、ただただ飾って頬の肉を上擦らせるだけである。
 ある日、彼はとち狂った。理由はない。過密なスケジュールで思考回路がいかれただけである。
 そして引き出しから、今まで温めていたチェーンソーを取り出し、トリガーを引く。ギュルルルルルル。
 まず目に映る嫌な書類群を片付けた。ギュルルルギャギャ。
 次に目に映る嫌な上司や同僚を片付けた。ギュルルギャギャギャギャ。
 次に社長室で秘書を片付け、器用にドアをくり貫くと、社長の胴めがけて振りかぶった。ギュルギャッギャッギャッ。
 そして次に、自分の首にそれを当てた。ギーギャッギャッギャッギャギャ。
 過密なスケジュールが彼の人生を狂わせた。

080331

「あら何だろ。これ」
 彼女はグロテスクな造型のお面に手をかけた。
 
 暑さの抜けない、八月中間の夜。僕は先月から付き合って間もない櫻ちゃんと夏祭りを出歩いている。
 長髪に化粧っ気の薄い彼女は、控えめな柄でありながらも、体のラインがはっきりと分かる浴衣で僕は愚か通りすがりでさえも魅惑し、こっちに来るちょっと前に、同行していた僕が彼氏に見えなかったらしくイギリス人のように目鼻の整った器量の良い男が彼女に茶の誘い(恐らく後の性交を望んでいることであろう)を受けていたのにはびっくりし、そこで承諾してしまえば、彼女とその男が楽しく夏祭りに興じ、僕が一人寂しく家に帰っていれば万事解決だったのだが、あろうことか彼女はその男の右頬を卓球のスマッシュのように打ち、同時にピンポン球を思いっきり弾き返したような気持ちの良い効果音が楽しめた。そしてその前には頬を押さえながら女座りで地べたに倒れ、涙目の男の姿が。
「あんたねえ、いくつ女と遊んでるのか知らないけど、彼氏のついてる女に声掛けるだなんて良い度胸じゃないの。顔洗って出直しな坊や」と言うとペッと奴の顔に黄痰を吐き出した。見た目によらず育ちが悪いようだ。でも櫻ちゃんの一途なところがまたいい。
 しかも、告白したのは僕ではなく、彼女である。これにはびっくらこいた。月面顔と言われた僕に一生連れ添いなんて出来るわけないと自分は愚か周囲の人間でさえ満場一致の判決を下していたのに、いつもこの子いいなぁっと遠目から眺める程度の接点で、まさにたわいない関係であった。
 ある日、技術室に呼ばれ。そして告白を受けた。「あなたの目が好き。付き合って」
 世の中はわかんないもんだ。こんないけいけどんどんのぴちぴちな子が顔面凶器と付き合うだなんて。しかしそれは悲しむことじゃなく寧ろありがたいと思うべきだろう。現にこうやって楽しんでいるわけなのだから。
 夏の夜は昼間の影響で湿っぽく、気温が抜けない。であるからにしてより肌着になり易いわけだ。つまりこうまで彼女がラインに沿った浴衣着であるというのは…。ぐふふ。
「もう、そんなにじろじろ見ないでよ。えっち」
 とぺちっと僕の頬を軽く触る程度に叩いた。可愛い。顔を少し赤くしているのところがなお可愛い。全くぼかあ幸せもんだなあと加山雄三が言いそうな台詞を口走り、櫻ちゃんはもうっと一言、それは否定の応答ではなく、寧ろ肯定を表す。
 とかく、僕らは屋台を巡り歩くと彼女は何の変哲もないお面屋に足を止める。
「あら何だろ。これ」
 彼女はグロテスクな造型のお面に手をかけた。よくB級映画で見られる悲劇の源のような人間の血管を浮き上がらせたようなゴリラの表情に顔の筋肉をむき出しにしたとうか、ともかく説明がつきにくいが悪魔か何らかをモチーフにしたものだろう。とても子供達が親にねだって買うような可愛らしいお面の類いじゃない。とんだ物好きが悪戯半分で買っていくかいかないかぐらいの購買層を問うような奇妙なお面だった。櫻ちゃんはそれに途轍もないほど興味を示し、おもむろに引っ手繰ると、まだ買ってもいないのにそれをつけ始める。
「ばあーがおー。びっくりした?」と調子に乗る。全く可愛いもんだからと苦笑い。
「ははは。はは、あ」と櫻ちゃんはお面を取る仕草をする。しかしまたふざけているのか、いつまで経っても取る気配がない。
「はは。もういいよ」と僕が声を掛けて上げるが、櫻ちゃんの反応はなく、しかも明らかに様子がおかしくなっている。すると櫻ちゃんとお面との隙間が埋まり、いつしかお面自体が彼女と同化し首筋が浮き出て、依然として呻いたままだった。
「さ、櫻…ちゃん?」その場に蹲った後、ぴくりとも動かない。恐る恐る近づくと彼女は突然俊敏に立ち上がる。
「パパぁーあのお面買っ」とたまたまお面屋のキャラクター物をねだっている女児の左手人差し指を彼女は片手で掴み、曲がっちゃいけない方向に曲げる。ぎいやあああああああ。女児は出来る限りの高音で悲鳴を上げる。それに伴わずに彼女の手は止むどころか、自身と一体化したお面の口がまさかと思うが動き出し、その女児の顔の皮を、鋭い歯で。
 思わず目を伏せた。その直後に聞こえる人間が出す音とは思えない程、身に染みる高音。
 口の周りを血液で潤滑したお面にへばり付く彼女は、肉が詰まった人形をたこ焼き屋に投げ入れて僕の方向に向かった。いや、明らかに僕に狙いを定めている。
「マッテ。マッテヨ。イッショニタノシク。タノシク」
 やめろ。来るな!ちょっと待て!ギブアップ!ノーマネーでフィニッシュ!タンマ、タン